ERPパッケージ主流の時代に

大手、中堅企業の基幹業務システムにおいて、ERPパッケージが主流になり、はや20年近くになろうとしています。今やERPとは何かなど。改めて説明の必要はないでしょう。スクラッチ開発かERPパッケージ導入かといったかつての命題も今や遠い過去のもの、またはかつてとは違った論点で語られているのではないかと思います。
しかしERPとネット検索すれば、今でも「企業の経営資源(人材、資金、設備、資材、情報など)を統合的に管理・配分し、経営と業務の全体最適化を目指し・・云々」といった馴染みのも文言が出てきます。しかしそもそもその思想を製品としてのERPパッケージが果たして実現できていたか。一方、全体最適を謳うゆえ個別機能に至ってはベンダー側の「仕様です」というにべもない返答に私達は何度落胆や唖然とさせれてきたか。また「お客様の責任で・・」という御馴染みの答えに、ベンダーとのやりとりがまた徒労で終わったこと知った脱力感。それらは長年のユーザーであればあるほど身にしみています。ERPパッケージを導入または使い続ける目的を「企業のヒト・モノ・カネといった経営資源を・云々」と考えている粋狂なユーザーや会社は今や皆無という中で、しかし企業の業務全体をカバーしているパッケージ製品という程度の意味合いでしかなくなってしまっていることは事実です。
 

あらためてERPを定義する

ご存知のようにERP(EnterpriseResourcePlanning)とは、企業の経営資源(人材、資金、設備、資材、情報等)を会社全体で一元的管理し、適切に配分、活用しようとする企業経営における計画、経営手法またはそのもととなる概念であって、ERPシステムのことではありません。しかし普通「うちの会社、ERP入れてるよ」と言われた場合、その概念、経営手法としてのERPを何か経営活動に導入しているなどとは誰も考えないでしょう。業務全体をある程度カバーするシステムのパッケージを導入した、ひどい場合には会計パッケージなどの個別業務パッケージを導入したかのように理解されることもあります。例えば大手メディアの顧客満足度調査のERP部門の上位製品の半分は、厳密にはERPとは言えないばかりか、個別業務パッケージもあげられていますので、ここまでになると素人の誤解などではなく、ERPとはもう個別の業務パッケージ含め、経営改善を図るためのパッケージソリューション全般をERPと定義してしまったほうがわかりやすいようです。私達は正確な、または狭義のERPソリューションではなく、広義または基幹業務パッケージ導入全般としてERPを考えてみます。
 

将来の理想ではなく、
今の次のシステムを考える

ERPを含む業務パッケージの導入にあたり、経営の“見える化”など経営の高度化を期待、目的として謳われることが一般的ではあります。純粋かつ狭義なERPパッケージをビッグバン導入すれば、理想的で文字通りのERPの実現されている可能性も高いはずですが、個別の業務課題などの目下の重要事項の他、IF先のシステムやその先の業務が従前どおりに運用可能であることが条件である等、経営の高度化以前の目的と制約が山積の新たな業務パッケージ導入においては、大局的な問題や課題はもう誰も見ることはないキックオフミーティング時のフォルダから実質的には門外不出の状態となります。
 
ではそのようにならないためには、という話はよくあるので言及はしませんが、しかし中堅企業がERPを含む基幹業務パッケージを初めて、あるいはそれに近い状況下で導入するにあたっては、狭義のERPの意義やメリットにこだわる理由はほとんどありません。ERPベンダーにおいても、今やベストプラクティスの提供とは一切謳わなくなり、逆に柔軟な機能や業務プロセスの選択が可能であることを謳うことが当たり前となっています。遠い理想を見据えた無理な計画や目標は、革新的な政治革命のように無理や破綻の危険が非常に高いものです。しかし一方で、精緻に作成されたかに見える詳細な機能要件に多くの○がつくRFPのみを重視、信用すべきというわけではありません。ご存知のようにRFPには多くの誤解や曲解、様々な立場からのご都合主義が潜んでいます。10年以上前と違いERP導入が成功、カットオーバーできればひとまず成功とは言えなくなった現在において、ERP導入の目的は根底レベルから難しくなったかのように見えます。
 
しかしこれからはじめてパッケージ導入を検討される企業や中堅、中小企業においてもそうでしょうか。日本の中堅、中小企業においては、業務効率化に成功したところで、社員を解雇できるわけでもなく、大企業のように配置転換できる先も多くあるわけでもありません。
 
しかし一方“自社固有の業務”という自社外の人間から見ると非常識な業務でしかない業務が、選択ではなくパッケージ機能の標準的な導入によって、“常識的な業務”になる程度であっても(決してベストプラクティスではない)、実質的にも予想以上の効果であったと考えられている導入企業は非常に多いのです。小さなレベルでも非常識な業務が常識的な業務になり、その小さな積み上げが経営改革に匹敵するような大きなバタフライ効果を生むことは決して珍しいことではありません。
 
そのような状況の企業においては、広い意味でのERP、前述の個別業務パッケージを含むパッケージソリューション全般の中で、遠い将来の理想、そのあるべき論ではなく、今、この次にどのようなシステムが必要かを考えることのみが最も重要であると私達は考えています。